あ ま や ど り

〔序曲〕







「梅千代様たちは、あの路で上手く峠を越えられるだろうか」
「とにかく、今は考えてる暇はねぇ。俺達が一刻も早く落ち合わせの岐路へ到着しなければ」
 陽が傾いてきた頃。
 重装備で身を包んだ二人の侍が、速歩で表街道の峰を下っていた。
 落ち着いた配色で彩られた鎧を二人は身に付けてはいるが、その端々には戦いによって痛んだ感が見受けられる。髷の髪も大分乱れていた。
「そういえば……。なぁ、知ってるか。十年前、この山中で行なわれた戦を」
 不意に、一人が足を運びながら言う。
「ああ……。中浜家の落人の事だろ。結果、相討ちになった戦で、中浜の姫が里の寺に預けられたが、相手方の捜索があって行方知れずになったって話だろ」
 二人がそんな会話を交わしていたとき、ふと山道の真中に人影が映った。
「ん……?」
 武士は眉を顰る。
 走る二人が近づくにつれ、人影ははっきりしてきた。
 背丈、五尺ニ分程。
 派手な紅の地に大柄の白の菊が入った単衣長着を膝までに留めている。
 頭には、露草の簪。右の髪は肩まで垂らしている。氷色の帯は心の臓の下の位置で、肩結びしている、年の頃十五、六の娘だ。
「おなごだ」
「あの態……、夜鷹か?」
「こんな山中にか?」
 武士たちが小声で囁き合う。
 娘は、少し眼を伏せて口を開いた。
「お二方。いい脇差差してますねぇ。一寸、見しておくれ」
「あ?」
 武士が顔をしかめた。

(C) SAWAMURA HARU 2002.01.25 

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