●●● 後悔という名の怪物 「今やらなきゃ、いつやるの?」 この時期になると、いつも彼女が現れてそう言う。 別れの時にはいつも、もう二度と逢いたくない、と願っているのに。 僕は、ずっと前から彼女をよく知っている。 彼女の出生の秘密、癖、成長してきた過程…その割に、昔と何1つ変わっていないということ。 僕は、彼女を知り過ぎている。 でも、彼女は僕の事など何一つ知らぬ顔で、僕の前に現れるのだ。 「今は……」 「判ってるよっ」 僕は怒鳴りたくなる衝動を抑えて目を逸らした。 本当は、よく分かってるくせに。僕のいくじなさや、僕が君に弱い事。 なのに、何でいつも僕の邪魔ばかりしようとするんだ? 何でいつも、やりたいときにやりたい事をやらせてくれないんだ? 彼女は、唇をかみ締めた僕を見て、クスッと笑った。 「判ってるわよ。でも、貴方がいつもあたしを呼んでるんじゃない」 また始まった…。 「貴方が。あたしに会いたい、って言うから、来てるのよ」 全身から冷や汗が流れたかと思うほど、僕は焦っていた。 何か、得体の知れないモノに惑わされて、気持ちだけが一人歩きをしていた。 でも、それが何なのか、頭でははっきりと判っていた。 その形が次第に明確になってくるにつれ、僕は益々焦るのだ。 「…あたし、もうすぐ帰らなきゃ」 独りにして欲しくない時だけ、彼女はさっさと帰りたがる。 でももう、二度と君の顔なんか見たくは無いよ。 「またそんなこと言って。しばらくしたら、又あたしに会いたくなるのよ」 でも今は、もう絶対にこの誓いを破ったりはしたくないんだ。 だって、君に会ってしまった後、いつも僕は悩まされているんだから。 「その代償を払ってでも、貴方はあたしに会いたくなるのよ」 そういう彼女は、きっと知ってるんだろう。 君に会ってしまうと、必ず僕に襲い掛かる、後悔という名の怪物の事を。 |