●●● i.e. 君に貰ったキャラメル・ドロップは、とても苦かった。 さようなら、 と最初に言ったのはあなたの方よ。 いつのことかって、最後に会った日のことじゃないわ。 もっと、ずっと前のことよ。 あなたは、きっと忘れてしまっているでしょうね。 雪の降った朝。 あなたのたった一言を待っていたあたしを裏切ったときに、あなたはあたしに別れを告げているのよ。 自分勝手だ、 なんて、言っていればいいわ。 あたしが微笑みかけても、無視するくせに。 なのに、ある時突然あなたは猫になるのよ。 あたしの気なんて、全然判ってないんだわ。 あたしの気持ちを理解する気なんて、元々無かったのよ。 その眼、まるで仇でも見るかのようにあたしの方を向いている。 僕が全部悪いんだ。 そう言い切れるほど、僕はオトナじゃないよ。 貴女は、いつまで怒っているつもりなの? 自分の気持ちを理解してくれない、なんて、子供みたいなこと言わないでよ。 僕は貴女じゃないんだ。 貴女の考えていること全てなんて、判るはずが無いよ。 誰だって腹が立つことはある。 でも。もう、許す気なんて無いんだろう。 舌の上で溶けていく、貴女がくれたキャラメル・ドロップ。 何故、今日に限ってこんなに苦いの? これが、僕に出した答えなの? あなたが一体、何を考えているのか判らないわ。 あたしが全て正しいなんて言わないけれど、少しあなたは非常識なんじゃない。 他人の気持ちを考えずに行動したら、周りの人が傷つくって判らないの。 思想の自由や自主って意味を、勘違いしているのよ。 反省も成長もない。 あなたの中では、いつも同じ季節が足踏みしているの。 立冬だと聞いた、少し肌寒い夜。 集合住宅地内の小さな公園で。 互いの表情も見えぬままの、ふたり。 隣り合って、乾いた言葉を放り投げあって、測りあって。 でも、その眼を見ることは決して無かった。 もう、今までの僕達には戻れない、と云っている、貴女の手。 今は、あなたと関わりたくはないの。 あなたを見ていると、腹が立つから。 その顔、その声、その鞄。 何を見ていても、不愉快になる。 あなたを思い出す要素が、ここには溢れすぎているわ。 いつまでも、あたしにまとわりつかないで。 あたしがなんで怒っているのか、まだ判らないの? 友達といると疲れる、なんてあなたに言われたくないわ。 それが判っているなら、友達なんて作らなければいいのよ。 なのに、あなたはいつも誰かと一緒に居たじゃない。 あたしは、あなたがここにいることに疲れているのよ。 夕立が通り過ぎた。 生徒たちは、もう居なくなっていた。 校舎の脇の自転車置場。 その正面にある裏門の前で、ずっと待っていた。 貴女が来ないことは、知っていた。 さようなら、と最初に言ったのはあなたの方よ。 突然、友達をやめたい、なんて言ったのはあなたの方よ。 以前、友達といると疲れる、なんてあたしに言ったのは、前置きのつもり? ただ、あたしといるのが疲れたんでしょう。 何を面白がっているの。 そうやって、あなたは自分で作ったものを壊したがるのよ。 真赤に紅葉したもみじが、廊下一面に散らばっていた。 僕達が過ごした教室の前。 窓の中の中庭の木々は、殆どの葉を落とした後だった。 密閉された空間で、風もなく静かに佇む落葉たち。 掃除は誰がするつもりなの、と貴女が言った。 自分を理解してくれない、と言った貴女。 判って欲しかったのは、僕だって同じだよ。 でも貴女は、結局いつも僕ではなくあいつを選んだ。 友達には戻れないと、予感した午後。 この先何年でも、貴女を待つよ。 貴女に縛られたくないから。 僕はそんなこと、思わないよ。 みんな大切だ、なんて口先だけの言葉は云わないで。 どちらかを選ぼうとするのは、貴女も同じ。 たとえこの先、あなたが修復を求めて来ることがあったとしても、 もう僕は、元に戻る気なんてないよ。 だから。貴女が微笑みかけてきたって、それに応える気は僕にはないよ。 今まで通りの友達に戻りたいのは、あたしだって同じだわ。 でも、それを妨げているのはあなた自身なのよ。 あなたは気づいているの? そうやってあたしのこと、見て見ぬ振りをしているのは。 もう少し、いたわりを持って接することが出来ていたなら。 毎日近くに居すぎて、 毎日マンネリ化した日々を送り続けていたのよ。 だから、気づかなかったのよ。 あなたにも言えることでしょう、 あたしたちには思いやりが欠けていたのよ。 肌寒い風が、登校する自転車に吹きつける。 師走。 今年もまた、終わろうとしている。 休みに入ってしまったら、もう貴女に会うことも無くなるでしょう。 そしたら、少しは穏やかな日を過ごすことが出来るのでしょう。 そして、もう来年は、この学校で貴女を見かけることも、無くなるでしょう。 ズット 貴女ガ 好キデシタ。 |