i.e.








 君に貰ったキャラメル・ドロップは、とても苦かった。










 さようなら、
 と最初に言ったのはあなたの方よ。

 いつのことかって、最後に会った日のことじゃないわ。
 もっと、ずっと前のことよ。
 あなたは、きっと忘れてしまっているでしょうね。
 雪の降った朝。
 あなたのたった一言を待っていたあたしを裏切ったときに、あなたはあたしに別れを告げているのよ。
 
 
 
 自分勝手だ、
 なんて、言っていればいいわ。
 あたしが微笑みかけても、無視するくせに。
 なのに、ある時突然あなたは猫になるのよ。
 あたしの気なんて、全然判ってないんだわ。
 あたしの気持ちを理解する気なんて、元々無かったのよ。
 その眼、まるで仇でも見るかのようにあたしの方を向いている。

 
 
 
 
 
 僕が全部悪いんだ。
 そう言い切れるほど、僕はオトナじゃないよ。
 貴女は、いつまで怒っているつもりなの?
 自分の気持ちを理解してくれない、なんて、子供みたいなこと言わないでよ。
 僕は貴女じゃないんだ。
 貴女の考えていること全てなんて、判るはずが無いよ。
 誰だって腹が立つことはある。
 でも。もう、許す気なんて無いんだろう。

 舌の上で溶けていく、貴女がくれたキャラメル・ドロップ。
 何故、今日に限ってこんなに苦いの?
 これが、僕に出した答えなの?

 
 
 
 
 
 あなたが一体、何を考えているのか判らないわ。
 あたしが全て正しいなんて言わないけれど、少しあなたは非常識なんじゃない。
 他人の気持ちを考えずに行動したら、周りの人が傷つくって判らないの。
 思想の自由や自主って意味を、勘違いしているのよ。

 反省も成長もない。
 あなたの中では、いつも同じ季節が足踏みしているの。






 立冬だと聞いた、少し肌寒い夜。
 集合住宅地内の小さな公園で。
 互いの表情も見えぬままの、ふたり。
 隣り合って、乾いた言葉を放り投げあって、測りあって。
 でも、その眼を見ることは決して無かった。

 もう、今までの僕達には戻れない、と云っている、貴女の手。

 
 
 
 
 
 今は、あなたと関わりたくはないの。
 あなたを見ていると、腹が立つから。
 その顔、その声、その鞄。
 何を見ていても、不愉快になる。
 あなたを思い出す要素が、ここには溢れすぎているわ。
 いつまでも、あたしにまとわりつかないで。
 あたしがなんで怒っているのか、まだ判らないの?
 
 
 
 友達といると疲れる、なんてあなたに言われたくないわ。
 それが判っているなら、友達なんて作らなければいいのよ。
 なのに、あなたはいつも誰かと一緒に居たじゃない。
 あたしは、あなたがここにいることに疲れているのよ。


 
 
 
 
 夕立が通り過ぎた。
 生徒たちは、もう居なくなっていた。
 校舎の脇の自転車置場。
 その正面にある裏門の前で、ずっと待っていた。
 貴女が来ないことは、知っていた。






 さようなら、と最初に言ったのはあなたの方よ。
 突然、友達をやめたい、なんて言ったのはあなたの方よ。
 以前、友達といると疲れる、なんてあたしに言ったのは、前置きのつもり?
 ただ、あたしといるのが疲れたんでしょう。
 何を面白がっているの。
 そうやって、あなたは自分で作ったものを壊したがるのよ。

 
 
 
 
 

 真赤に紅葉したもみじが、廊下一面に散らばっていた。
 僕達が過ごした教室の前。
 窓の中の中庭の木々は、殆どの葉を落とした後だった。
 密閉された空間で、風もなく静かに佇む落葉たち。
 掃除は誰がするつもりなの、と貴女が言った。

 自分を理解してくれない、と言った貴女。
 判って欲しかったのは、僕だって同じだよ。
 でも貴女は、結局いつも僕ではなくあいつを選んだ。
 友達には戻れないと、予感した午後。
 
 
 
 
 
 この先何年でも、貴女を待つよ。
 
 
 貴女に縛られたくないから。
 僕はそんなこと、思わないよ。
 
 みんな大切だ、なんて口先だけの言葉は云わないで。
 どちらかを選ぼうとするのは、貴女も同じ。
 たとえこの先、あなたが修復を求めて来ることがあったとしても、
 もう僕は、元に戻る気なんてないよ。
 だから。貴女が微笑みかけてきたって、それに応える気は僕にはないよ。

 
 
 
 
 
 今まで通りの友達に戻りたいのは、あたしだって同じだわ。
 でも、それを妨げているのはあなた自身なのよ。
 あなたは気づいているの?
 そうやってあたしのこと、見て見ぬ振りをしているのは。
 もう少し、いたわりを持って接することが出来ていたなら。
 毎日近くに居すぎて、
 毎日マンネリ化した日々を送り続けていたのよ。
 だから、気づかなかったのよ。
 あなたにも言えることでしょう、
 あたしたちには思いやりが欠けていたのよ。
 

 
 
 
 
 肌寒い風が、登校する自転車に吹きつける。
 師走。
 今年もまた、終わろうとしている。
 休みに入ってしまったら、もう貴女に会うことも無くなるでしょう。
 そしたら、少しは穏やかな日を過ごすことが出来るのでしょう。
 そして、もう来年は、この学校で貴女を見かけることも、無くなるでしょう。

 
 
 
 


 ズット 貴女ガ 好キデシタ。
 
 
 
 




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