I miss you.





 君が好きだよ。

 君のこと、好きだよ。




 他人の欠点しか見つけだせなかったのは、過去のあたし。
 愛されない自分が判っているから、人を好きにはなれなかったの……。

「あなたは人を傷付けてばかりなのね」
 と言った、あなたの声が痛くて。
 今まで、他人を好きになってしまうのが怖かったの。



 愛、なんてコトバを言わないで。
 恋、なんて只の官能の錯覚よ。

 ……吐き気がする。


 でもあたしは、君のことを認めたい。
 優しくて、がさつで、うっとおしい君の存在を、認めてみたいの。


 でも。
 『成約の恋人』のあなたが、あたしを束縛する。
 形の無いあなたが、下卑たコトバであたしを罵るの。

 あなたはもう既に、あたしの手には届かないところにいるくせに。
 あなたにとって、あたしなんてもう、いらないはずなのに。

 何で邪魔をしたがるの?
 何でそう、あたしの周りを監視するの?


 ……でもそれは、あたしの中の錯覚。
 心の疚しいあたし自身の、感情の自主規制。


 誰でもいい、なんて訳じゃないの。
 でも、君じゃなきゃ厭、と言うわけでもないの。

 でもあたしは、これ以上あなたに縛られるのには耐えられない。
 早く成約を切って、あなたから開放されたい。
 早く、早く、早く、早く………。

 判るでしょ?
 苦しいのよ。
 寂しいのよ。
 君の心と躰が欲しいの。今すぐに。


 誰かが誰かに恋してる、なんて嘘っぱち。
 でも、君はあなたの事を見つめている。
 欲張らなくていいのよ。
 何も求めていないんだから。

 でもそれは、ぽっかり心に穴が開いたみたいに、あたしの生気を引き抜くの。

 君の事が好きだよ。
 大好きだよ。

 でもあたしのものになって欲しいなんて、思わないわ。
 これからも。

 『成約の恋人』のあなたに束縛されるのが厭だったのは、あたし自身。
 独占欲が弱いのが、あたしの長所。
 そう、信じていたいのよ。



 過去に縛られすぎているのかもしれない、なんて時々思うわ。
 大人気ない、なんていつも思うわ。
 でも、心の隅にはいつもあなたの影がちらつくの。
 そして、あたしの行いを、けなすのよ。


 判るはずが無いわ。
 苦しいのよ。
 寂しいのよ。
 誰にも愛されないあたしじゃなく、あなたに縛られていることが。

 そこから救ってほしいなんて、虫が良過ぎるよね。
 だって君には何も望まないって決めたんだから。




 最低なあたし。
 莫迦なあたし。
 それを認めてくれた、貴方のコトバを受け入れられないのはどうして?

 同情とかじゃなく、愛でもなく、安らぎを求めていたの。
 きっと。


 あなたの言ったコトバを思い出す。
 あなたの言ったコトバが突き刺さる。

 君を嫌いになりたいよ。今すぐに。
 誰も救ってくれなくていい。
 誰にも頼りたくないと決めたのは、あたし自身。


 貴方の賢さをあたしは知っているの。
 あたしの莫迦さを貴方は知っているの。
 だから貴方は、知らない振りをするあたしを見過ごしてくれる。
 そこにあたしは漬け込んで、貴方の気持ちに蓋をする。
 ……最低なあたし。



 あなたが構ってくれないと、愛を求めていたのは過去のあたし。
 心の隙間を、他人の熱で埋めようとしていたの。

 寂しさを紛らわせるなら、誰だっていいと思っていた。
 あなたにやきもちを妬かせられるなら、誰だっていいと思ってた。


 でもあなたは、裏切った。
 あたしの心を。
 あたしの全てを。

 あなたは憫笑するようにあたしに笑いかけ、そして消えた。
 ぎらぎらと光る、鋭利なコトバを媒介にして。



 君を好きになりたいよ。
 君と出会わなければ良かったよ。
 君の存在に、ずっと気付かなければ良かったよ。
 成約の恋人は、あたしを縛って放さない。
 あたしは、それに逆らうことが出来ないの……。


 うまく表現できない言葉も。
 無器用なあたしの気持ちも。
 他人を認められない愚かさも。
 君の欠点を漁る精神も。
 あなたを愛するあたしも。
 全部、全部、全部、全部、全部、ぜんぶ、ぜんぶ。


 I miss you.
 あなたがいなくて寂しい。
 この胸の中に、あなたの体温を少しだけ、
 分けて、交ぜて、一つになって。



 微熱が冷める頃合は、何時のこと?

 他人は、
 何時までも永遠に冷めない熱に魘されたい、
 なんて言っているのかも知れないけれど。

 早く何処かに消え去って。
 そして、もう二度とあたしの前に現れないと誓って。
 だって病気なのよ。
 これ以上熱が上がらないうちに、早くあたしの中から出ていってよ。



 君を抱きしめたいよ。今すぐに。
 君に嫌われたいよ。今すぐに。
 微熱で見た幻覚が、あたしの眼孔を捕えて放さないの。

 でもそれは、ビールスの妄想だと信じているから。
 でもそれは、愛されないあたしの僻みだと信じているから……。




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