00  カノジョと云うコ  >> 00





───なんでもないの。









 丁度、俺の誕生日の一ヶ月前だった。その事を、知ったのは。
 相方と呼んでいる幼馴染みの同居人、朋久が、一年前ひとりの少女を家に連れてきた。下手すれば中学生に見えかねない、幼い雰囲気の彼女はファミレスのウェイトレスで、深夜のファミレスを頻繁に利用していた為、仲良くなったと云った。名前は、ナシコ。朋久は、ナシちゃん、と呼んで度々その子を家に連れてくるようになった。当時の俺は、大学四年生を二回やる羽目になっていて、今まで以上に外に出るのが億劫で、僅かなスーパーのレジ打ちのバイトの時間と、必須科目の授業の為たまに大学に顔を出す以外は、家に籠もりがちだった。学生時代の延長で朋久と二人暮らしのアパートに、ナシコちゃんは訪ねてくる度に律儀に俺の部屋にも挨拶に訪れた。そうして彼女と少しずつ喋っている内に、ああ、成程な、と思った。朋久の好みのタイプの女の子だ。モテると云うのか、長続きしないが故にか、割と数居るこれまでの朋久の付き合ってきた女の子たちは、大体知っている。第一印象は、そうは思わなかった。外見や服装がこれまでの彼女のタイプと違って、大人っぽいどころか逆に子供っぽいし、体型もどちらかと云うと小柄で、年齢も四つも下。年上でも同い年でも年下でも、大人チックな空気が漂っていて、すらりと背の伸びた感じの印象がある女性と付き合っていたように思っていた為、この子はそういう対象では無いんだろうな、と勝手に考えていたが、そうでもないのだ。ナシコちゃんの云う事は筋が通っていて、考えが一貫している。十八という実年齢よりも幼い印象を与えるハーフパンツに、レザーのブーツを履いて来るその外見とは違って、落ち着きのある声をしている。ナシコちゃんは定期的に家に来だして、そうしている内にたまに明け方まで泊まっていくようになった。3DKのアパートの、薄い押入を挟んで隣り合う部屋にお互いの個人部屋を取っているが、深夜に隣室からの如何わしい声を聞いたことは一度もない。とはいえ、若い男女が幾晩も共に過ごしておいて、何もないとは俺も思っていない。けれど、今まで連れてきた恋人は必ず紹介してくれた朋久が、ナシコちゃんに関しては何も云っていなかった。ナシコちゃんもナシコちゃんで、俺の前では特に朋久と必要以上に親しげな訳でもなく、恋人らしき言動も垣間見ることは出来ない。それでも。男女の仲は時に解り難く。そうやって月日が流れていく内に、いずれ二人は付き合うのものだと、思っていた。もしかすると、俺が判らないだけで、既に二人は恋人同士なのかも知れない。
 そうやって一年が経った頃だった。朋久に、彼女が出来た事を知ったのは。
 朋久はある日突然、知らない女の子を連れてきた。第一印象は、今時の子。歳は同じか少し下。俺の知ってる、方程式の回答が予想できた。彼女、西寺杏子。最近付き合い出した子。女の子を指して、朋久は俺に云った。御座なりの科白に聞こえた。だって前日、朋久の部屋にはナシコちゃんが泊まりに来ていたのに。
 俺たちは、互いの生活には殆ど干渉しない。それは、昔からそうだった。家が向かい同士で、生まれた病院も通った学校も高等学校まで同じで、ずっと一緒にいたけれど、互いのやり方に口出しした事は今まで殆ど無かった。暗黙のルール、なんて大層なものがあるわけではない。ただ、今までそうしてきただけ。仲が悪いわけではない。それで問題が生じることはなかったし、一緒に住んでいても気兼ねしないで居られる。だから俺は、朋久の言動に質問をすることはない。現状を理解すればいい。幼馴染みの同居人、倉田始です。と、朋久の隣に佇んでいる女の子に俺は会釈した。彼女、杏子ちゃんは歯を見せて微笑んだ。大学三年生だという、流行りのファッションに身を包んだ杏子ちゃんとは、サークルの先輩の伝で知り合ったと云う。笑顔の似合う、可愛らしい女の子だった。




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