01  流れる日常と、本当の気持ち  >> 04




 一旦、朋久と別れて家へ帰った俺は、財布の中身が空になったことを思い出して、自分の部屋に置いてある、蓋を取ると灰皿になる煙草の缶の中を探った。缶の中身は、現金や通帳、印鑑などの貴重品を入れてあるからだ。はっきりとは把握していなかったが、まだいくらか紙幣が残っていると思っていた缶の中に現金はなく、仕方なく通帳を開いて残高を確認してみると、予想していた金額の半分の額しか印字されていなかった。数字は、四万円ちょっと。朋久と折半している、月末に払い込む家賃の分を差し引くと、一万も残らない額だ。今まで、こんな風に金銭的な面で窮地に追いやられたことはなかった筈なのに、何故こうなってしまったのかと一瞬脳が回転したが、答えはすぐに出た。近頃急に、俺が外に出だしたからだ。外出をすれば、金を使う。散髪をした。食材の買い物をした。パチンコに行った。外食をした。今までは日長家の中で過ごし、買い置きしてあるインスタント食品を食っているだけの生活だったので、金を使うことは当然無く、金の管理も把握もする必要性が無かった。それで、やっていく事が出来た。けれど、その行動しない生活に合わせた金額しか振り込んで貰っていなかったため、その生活リズムが崩れると途端に金が足りなく無くなってしまったのだ。とは云え、仕送りの額は、まだ家に籠もってなかった時期から変わっているわけではない。行動していた時期は、外に出て金を流出する分、バイトでいくらかは稼いでいたため、それで均衡が取れていた。しかし今は、バイトもしていない。怠惰な生活に慣れてしまった今、再度働き始めるのは面倒だと思ったが、とっくに就職して自分で稼ぎを持ち、親に仕送りしていてもおかしくない年齢になってまで、逆に仕送りを貰い続けている立場からは、仕送りを増やしてもらう事で解決することは躊躇われたし、云い出すことも出来ない。自分で稼ぐしかない。
 以前やっていて、辞めたかどうかが有耶無耶になっているスーパーのレジ打ちを再開させる気は無かった。今更顔を出して図々しくシフト申請しに行くのは気まずいし、誰だか判ってもらえない可能性がある。それに、俺が入っていない状況でずっと廻っていっているところに突然入り込もうとしても、入れてもらえないのがオチだろう。そうなると、一から探すしかない。求人広告表を見よう、と思った。よくコンビニに置いてある、持ち出しフリーの地域版求人冊子がある。それで見つからなければ、百円か二百円程度で買える、求人広告雑誌を買う。日は沈み出したばかりで、空はまだ明るかった。コンビニなら、二十四時間開いている。けれど、怠惰な俺は一日のうちに二度外出するのが面倒で、その作業を翌日に後回しすることに決めて、蒲団の上に横になった。どうせ、明日もこれといった用事はない。外出の予定が出来て、丁度良かった。呑気にそんなことを考えて側にあった新聞を広げると、玄関のドアが開く音がして朋久が帰ってきた。誰か一緒にいる声が聞こえる。杏子ちゃんを連れてきたようだった。




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